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衆院選挙制度改革問題の視点

衆院選挙区画定審議会による区割り改定案の勧告期限である2月25日が過ぎてもなお、適正な処置ができない立法府の怠慢に対し、批判が強まっています。
この問題は、2009年の衆院選当時、1票の格差が2・5倍以上開いていたことに対し、最高裁が「違憲状態」であると判断し、すみやかに「1票の格差を是正」しなければならない、ということが立法府に求められていたこともあり、そうした問題を解決すべき姿勢が立法府に足りなかったことが今回の事態を招いていることになります。

もちろん、立法府の責任ですから、与野党ともに責任があるわけですが、しかし、立法府では法案成立にもっとも大きな力をもつのは、野党よりも与党にあるのは、いうまでもありません。
その与党が、野党と並行線の協議を続けているだけでは、成案が得られるわけはありません。
しかも、与党の民主党は格差是正と同時に比例代表80削減を言って協議が始まってしまいました。
これは、野党のなかでも少数政党が飲める提案ではありません。

つまり、最初から協議が成立しえないような提案を突き付けてきたわけです。
もちろん、議員定数の削減自体は必要なことであると思います。
しかし、だからといって削りやすい比例代表の定数だけを削減してしまったら、衆院の選挙制度は、実質的に「単純小選挙区制」にますます近づいてしまいます。

そもそも、現在の衆院の選挙制度というものを冷静に見てみると、これは「比例代表並立制」という選挙制度となっています。
これは当初、比例代表と小選挙区の2つの制度を組み合わせて、いろいろな議論の結果、議席配分を3対2の比率となるように決められました。
そして、自自公政権時代の1999年に、当時500あった定数を1割の50削減しようということになり、まず、比例代表を先行して20削減し、次に小選挙区から30を削減することになっていたのです。
ところが、小選挙区の削減は、なかなか合意が得られないまま放置されてしまって、今日に至っているわけです。

そうしたなかで、さらに比例代表のみを80削減してしまったら、これは、比例代表並立制という選挙制度自体のあり方が大きく変わってしまいます。
さきほど述べたように、小選挙区300に対して、比例代表が100だけになってしまうと、ますます「単純小選挙区制」に近づいてしまうからです。
つまり、比例代表のみを80も削減すること自体が、現在の比例代表並立制という制度に対する抜本的な変更を加えるということを意味するのです。

そこで、単純小選挙区制という制度のもつ意味を考える必要があります。
小選挙区制というのは、いうまでもなく選挙区の定数が1人しかありません。ですから、有権者が投票した票のうち、当選する1人以外への投票はすべて「死票」となってしまいます。
たとえば、選挙区で2人しか立候補しない場合は、当選した候補者はその選挙区の有効投票数における過半数の支持を集めたことになりますが、しかし、選挙区で3人以上立候補し、しかもそれらの候補者が競り合った状況であった場合には、当選した人が獲得した票は、その選挙区の有効投票数のなかでは半分以下の小さい割合の支持でしかないということになります。

ここに、小選挙区における問題点があります。
つまり、民意の反映ということから考えると、少ない民意が大きく反映されてしまう、という問題があるのです。
そこで、わが国の衆院の選挙制度は、小選挙区制にプラス比例代表を加えて、できるだけ多くの民意の反映ができるようにしようとしているわけです。

ところが、その比例代表のみを大幅に削減するというのは、民意の反映という面で、国民の意思が国政に反映されにくくなってしまいます。
このように、比例代表の80削減というのは、単に定数を減らす、ということだけではなく、現在の選挙制度の性格自体を抜本的に変質させてしまうことを意味することになるのです。

民意を反映しにくくする、ということは、少数政党がほとんど消えてしまう、ということを意味します。
ここのところが大変重要なのです。
もし本当にそうなってしまうと、大きな政党だけが国政の場でぶつかりあって、政治を本当に前へ進めていくことができるでしょうか?
あるいは、大政党だけで物事を強引に進めていって、本当によいのでしょうか?

こうしたことが国民はあまり意識することなく、ただ単に定数を減らせばよい、という「定数削減」だけの観点から、この比例代表削減を議論しているように思えてなりません。
私は、比例代表削減は、衆院の選挙制度の変質になり、しかも国民の意思が国政にますます反映されづらくなる制度に変わることになる、ということをもっときちんと知る必要があると思います。
そのうえで、そういう制度変更になるような比例代表削減と、現在の選挙制度自体を民意が反映されるような制度に改めつつ、定数も一緒に削減するやり方のどちらがよいのかをきちんと議論すべきであると思います。

最後に、公明党が提案する比例代表連用制について述べます。
これは、現在の比例代表並立制と名前が似ており、投票制度も、小選挙区と比例代表に1票ずつ投票する、という意味ではまったく同じです。
ですから、制度の変更といっても、実際には現在の小選挙区を変える必要もないし、国民にとって大きな変更による戸惑いも起こりません。
そのうえで、比例代表に重点を置いた制度なので、小選挙区制による「死票」の問題が少なくなる、というメリットもあります。
つまり、現在の制度の形式はまったく同じでありながら、制度の性質が「比例代表」に軸足を移した制度になる、という点で、制度の変更がしやすい、という長所があるわけです。
もちろん、大政党にとっては、あまりうれしくない制度であり、これを採用する可能性は少ないかもしれません。
しかし、制度の抜本改革というのは、実はゼロから制度を新しく作る方法でなくてもできるのだ、ということを知る必要はあると思います。

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